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高森明勅
2011.9.8 17:22

皇室会議の奇妙さ

『産経新聞』(9月8日付)の社会面に「皇族議員選挙 常陸宮ご夫妻再選」との記事が載っていた。

この見出しを見た読者は、一瞬、不可解な印象を受けた人が多いのではないか。

「皇族議員」だって?と。

記事の内容は、皇室典範に規定された皇室会議(定員10名プラス予備議員10名)のメンバーの中の、皇族議員(2名)と同予備議員(2名)の任期(4年)満了に伴う選挙が、7日に実施されたことを伝えるもの。

結果は、見出しにある通り、議員には常陸宮殿下と同妃殿下が再選され、予備議員も秋篠宮殿下と三笠宮妃百合子殿下が再選された。

投票は、皇族方の互選による。

一般の選挙権をお持ちでない皇族方にとっては、唯一の投票の機会である。

この記事を読んだ人は、すぐ隣りにある「天皇、皇后両陛下ご動静」の記事と照らし合わせて、またまた不可解な印象を持た人もいたのではないか。

というのも、そこには、皇室会議の皇族議員の投票に、皇后陛下だけが参加されたことが、報じられているからだ。

天皇陛下は参加されていない。

だが、それは天皇陛下が他の皇族方より高い位置におられるので、皇室のメン
バーの単なる一員として投票に参加されるのではなく、もっと重大な役割を果たされるためだろう、と予想する人も少なくないかも知れない。

しかし、実際はそうではない。

皇室会議に参加する皇族議員は、専ら成年に達した皇族の互選によることが、皇室典範に規定されている(第23条第3項)。

そして、関連の規定はそれだけだ。

ということは、多くの人たちにとっては意外な事実だろうが、皇室会議において、天皇陛下の存在は、まったく除外されているということだ。

皇族」とは、天皇陛下のご近親のことであって、陛下ご自身は、もちろん皇族ではいらっしやらない。

だから、皇族議員が皇族方の互選のみによって決められるというのは、天皇陛下がその選出に、一切、関わることが出来ない事実を示している。

これは、率直に言って、かなり奇妙なことではあるまいか。

そもそも皇室会議は、万一の場合の皇位継承順位の変更や摂政の設置、天皇・皇族男子の婚姻など皇室の重要事項を審議する機関だ。

なのに、皇室の「家長」と言うべき天皇陛下が、その会議に出席出来ないだけでなく、皇室から会議に参加する皇族議員を選出する手続きにすら、何ら関与出来ない。

天皇陛下を100パーセント除外した形で、皇室の重大事を審議・決定する皇室会議の現在のあり方は、普通に考えて、異常であろう。

更に、天皇陛下が排除される一方、10名の定員のうち、皇族2名に対し、4名は国会関係者(衆参両院の正副議長)が占め、議長は行政のトップである首相が務めるというのも、この会議での審議対象が皇室関係の事項のみに限定されている(第37条)点を勘案すると、首を傾げざるを得ない。

これを、旧典範における皇族会議と比較すると、そのいびつさは一層、明白だ。

皇族会議は、天皇陛下の親臨を原則とし、成年男子皇族によって組織され、それに内大臣・枢密院議長・宮内大臣・司法大臣・大審院長らが参列する形だった(旧典範第55・56条)。

メンバーを「男子」皇族に限定していたり、今では機構上の変更が見られる点はともかく、その基本においては、現代でも参考とすべき形ではないだろうか。

少なくとも今の皇室会議に比べ、よほどまともとの印象を持つのは、私だけだろうか。

ほとんど人々の関心の外にあるが、皇室の重大事を決する皇室会議の奇妙さは、もっと注意が払われてよいはずだ。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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